マインドフルネスに関する動向


 25世紀以上前にさかのぼる仏教の瞑想的実践に由来するマインドフルネスは、近年、西洋諸国で人気が急増し、さまざまな分野に浸透しています(Shapiro & Weisbaum
,2020)。1980年代の米国において、仏教のマインドフルネス技術を世俗的な治療介入に適応させたMBSR:マインドフルネスストレス低減法は、これらの瞑想的実践を科学的かつ体系的に研究する無数の分野の研究者の関心を呼び起こして(Kabat-Zinn,1982; Shapiro & Weisbaum,2020)以降、マインドフルネスが多様な精神的および身体的健康に及ぼす有益な効果を支持する多くのエビデンスが蓄積されています(Creswell,2017; Khoury et al.,2013)。
 出版物の数は2006年まで年間100未満でしたが、以降、マインドフルネスに関する出版物は指数関数的に増加を見せ2020年には2,808の出版物に達し、2010年から2020年にかけて年平均で23.5%の増加となりました。また、レビューの数も同様に増加し2019年には405件に達しています。
 
ウェブ・オブ・サイエンスに分類された研究分野に基づいて、マインドフルネスに関する出版物のほぼ半分が心理学であり、約5分の1が精神医学でした。
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ウェブ・オブ・サイエンス1966-2020に索引付けされた
マインドフルネスに関する出版物の数

マインドフルネスによる効果


感情的知性特性への影響 :
Trait Emotional Intelligence
ANCOVA
1分析の結果は、小さな効果サイズ(η2 =.045)で、マインドフルネスをおこなった実験グループに対して感情的知性特性の有意な改善を示しました。

メンタルヘルスへの影響 :
Mental Health
ANCOVA
1分析の結果は、マインドフルネスを実施した実験グループに対して中程度の効果サイズ(η2 =.093)でメンタルヘルスの有意な増加が示されました。

感情的混乱への影響   :
Emotional Confusion
ANCOVA
1分析の結果は、マインドフルネスを実施した実験グループに対して中程度の効果サイズ(η2 =.135)を示し、感情的混乱を減少する有意な改善が確認されました。

1 ANCOVA:共変量(分析する以前に取り除かれる要因)を用いて、より正確にグループ間の比較分析する方法
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MK-A 2プログラムが研究対象の変数に及ぼす重要な影響
2 MK-A:大学生の精神的健康、感情の調整、Well-Beingを改善することを
目的としたマインドフルネス ベースのプログラム

 さまざまなメンタルヘルスの結果につながるマインドフルネスの実践の根底にあるメカニズムについては、多くの仮説があります。1つの仮説は、困難な感情(不安、苦痛、怒りなど)への露出または経験意欲、これらの感情の認識、およびこれらの感情の観察により、人々は困難な感情と同一性を解消し、より適切に調整できることを期待できます。もう一つは、思考の認識、身体感覚の認識、自己思いやりが人々がストレスに対処するのに役立ちます。

国際コラボレーション


 国際間の出版物の共著は大きく6クラスターを形成しており、最も顕著なクラスターは、米国、カナダ、ドイツ、スイス (図中の青色表示) で構成されています。日本は緑色で示されたアジア太平洋クラスターに属していますが、このクラスターにおける主要国は中国とオーストラリアであり、日本においては今後の発達が期待される状況です。
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マインドフルネス研究を行っている国々の協力ネットワーク
円の大きさは各国の総合的なリンクの強さを表し、
線の太さは国々間のリンクの強さを示しています

マインドフルネス活用の広がり


 マインドフルネスの研究は米国を中心とした西欧各国で行われ、現在も研究エビデンスを蓄積されている比較的新しい心理療法の分野です。近年では中国を中心にアジア各国でも研究及びエビデンスが蓄積されていますが、その数は全体の数%に満たないのも現状です。
 しかしながら、臨床及び実験的研究に基づく科学的根拠=エビデンスは年を追うごとに増え、その効果が個人だけでなく、企業や自治体などでも活用をされるなど、マインドフルネスの広がりを続けています。

文献


  • Anuradha Baminiwatta, Indrajith Solangaarachchi, Trends and Developments in Mindfulness Research over 55 Years: A Bibliometric Analysis of Publications Indexed in Web of Science REVIEW Published: 16 July 2021 Volume 12, pages 2099–2116, (2021
  • Gómez, Pablo Luna, García-Diego, Alba Rodríguez-Donaire, Javier Cejudo, Exploring the effects of a mindfulness-based intervention in university students: MindKinder adult version program (MK-A), Alfonso Moreno- Received 30 July 2022, Revised 9 January 2023, Accepted 6 February 2023, Available online 9 February 2023, Version of Record 17 February 2023.
  • Math Janssen, Yvonne Heerkens, Wietske Kuijer, Beatrice van der Heijden, Josephine Engels, Editor: Klaus Ebmeier, Effects of Mindfulness-Based Stress Reduction on employees’ mental health: A systematic review, PLoS One. 2018 Jan 24;13(1):e0191332. doi: 10.1371/journal.pone.0191332
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